統計で使う行列の微分
統計で使いそうな行列の性質と公式を記載しておきます. 詳しくは統計のための行列代数(上,下)をご参照. 全体を通して実数の範囲で考えます.
ベクトルによる微分
ベクトル による微分は,微分の対象となる関数 を の各要素 で微分したものを並べたベクトル
と定義します. ここで,関数 はスカラー値であることに注意します. この定義に従って,以下の典型的なベクトルによる微分の公式を導出します.
内積に対する微分
となることから,
となります. 微分結果の係数ベクトル に転置がかかっていることに注意します.
二次形式に対する微分
の係数行列
と の二次形式 の による微分を求めます. 行列 による微分ではなくベクトル による微分であることに注意します. 内積の微分と同様に各 の微分は
となるので,これを列ベクトルとして並べると
となります.よって,二次形式の微分は
となることがわかります.
加えて,行列 が対称な行列 ならば なので,
となります.
行列による微分
ベクトルによる微分と同様に, 行列
による微分も,微分の対象となる関数 を の各要素 で微分したものを並べた行列
と定義します. ここでも,関数 はスカラー値であることに注意します. この定義に従って,以下の典型的な行列による微分の公式を導出します.
行列の Trace
まず,行列積のトレースを,行列の要素の和で表しておきます. を 行列, を 行列, を 行列とします. 行列 の 要素を と表すと,行列 のトレース は
で定義されます.
行列積 を和で表すと
と表されます.したがって,
となります.
同様に行列積 は
と表されるので,
となります.
Trace の微分
行列積 のトレース を で微分すると, の係数を抜き出せばよいから,
となるので,
となります. 同様に, のトレースの微分から
となるので,
がわかります.
また,行列積 のトレース を で微分すると
と計算できるので,
がわかります.
二次形式の微分
ベクトルによる微分と表記を変え, の係数行列
となります. したがって,これらの要素を行列に表すと
となるので,
となることがわかります.